夢は愚かな避難所

一生見られそうもないものなど、見たいとも思わぬ。

渋谷に居た。

疲れきった(おそらく新卒)サラリーマンが380円のどんぶりを食らう隣で、俺はその倍以上の金を払って美味しい定食をもくもく食べた。

 

次の日、ネギラーメンを啜る俺の隣で、小柄な金髪の若い男が「俺一般人の友達いなくて、芸能関係か社長しか友人いないんすわ。あのあたりのマンションは今年値上がりしていて、億は超えるから一般人じゃ買えないんじゃないんすか?」と電話で話しながら素ラーメンをずるずる音を立てて食っていた。彼は電話を切ると汁を一気に飲み干し、雑踏に消えた。男のことが気になった俺は彼を追ったが、人ごみの中でダルダルのズボンと真っ黒のTシャツに身を包んだ小柄な金髪の男を見失った。

 

いつものようにイヤフォンを耳に突っ込みながらラーメンを啜っていた俺だけど、隣の金髪がラーメンの音をずるずるさせながら電話をしているのが気になってイヤフォンを外すと、先の会話が聞こえてきた。

 

ラーメンを啜りながら電話の応対をできるメンタリティーが俺にはない。きっと相手は不愉快になるだろうから。

でも、彼はおそらく(どんないかがわしいものかは分からないけれど)仕事で忙しい中ラーメン屋に入ったところで、そのスマホが鳴ったから極普通に電話に出たのだろう。

 

疲れ切ったサラリーマンも小柄な金髪の男も彼らの隣に座った俺も、みんな≪渋谷≫に居た。