夢は愚かな避難所

一生見られそうもないものなど、見たいとも思わぬ。

衣替えの句読点

衣替えをしたことがない。

季節は唐突に変わるわけじゃない。桜はとっくに散ったのに寒かったり、鯉のぼりが見えるのに暑かったり。季節の変わり目のどのタイミングで衣替えをすればいいんだろう。今だってベッドが心細そうにひっついている壁にある、ハンガーが掛けられる取っ掛かりには冬に重宝したコートが、三年間使っているリクルートスーツが、卒業旅行で行った海外のディズニーランドで買ったミッキーがかわいいTシャツが、ユニクロで買ったトランクスが、ぶら下がっている。

今はベッドに座って部屋の中央に置いたテーブルの上にあるノートパソコンを使ってこれを書いている。PCの向こう側には椅子があって、そこにはセーターやパーカー、こないだ洗って干して取り込んでハンガーから外して畳まずにそのままにしているTシャツやYシャツがある。ちなみにこのテーブルの上にはPC以外に90円のポテトサラダと108円の缶チューハイゴーヤーチャンプルーの残り昨夜使ったマグカップこないだ行った呉市海軍歴史科学館大和ミュージアムで買ったドロップの空き缶点鼻薬薬箱代わりに使っているいつかのバレンタインデーにアップルパイが入っていたかわいらしい箱サザンの新しいアルバムこんどの日曜日東京ドームシティホール(?)で行われるライブのチラシ目黒区の中央図書館で借りてきたいくつかの本5.5m計れるメジャー北海道土産のマリモ実家から送られてきた瓶入りのふりかけ(無駄に高そう)東京23区の地図がある。要するに散らかっている(このテーブル、というか勉強机として買ったんだけど、それの上に乗っているものをいちいち羅列しているときに、おれが離れたくて離れたくてしょうがないミスチルの「Any」の歌詞「交差点、信号機、排気ガスの匂い、クラクション、壁のラクガキ、破られたポスター」が思い浮かんだ。こうやって名詞を並べて何かを言った気になるのは本当に安っぽい手法だなあと思っていたんだけど、使ってしまった。しかし、ミスチルのこの「交差点~」は五感に訴えている感がやっぱり癪だ)。

 

この部屋では時間が淀んでいる。桑田佳祐吉田修一があれば、大森靖子阿部和重がある。桑田と吉田は故郷から持ってきた、大森と阿部は東京で知った。冬物の洋服と夏物の洋服が同じように並ぶ。旅行かばんが放置されている。句読点のない部屋。

サイパンで買ったヤシの実をくりぬいて作った豚の貯金箱の横にはいつかのクリスマスに訪れたホテルで空いた時間に作った松ぼっくりのクリスマスツリーがある。

 

どうやって普通の人間は衣替えをするんだろう。思い切らないとできないよな。そっか、みんな思い切って衣替えしているのか。えらいな。

 

 

堆積していく時間と脂肪、流れろ流れろ。

 

 

何日か前の深夜……いやこの話はやめておこう。だって、最近おれに起こったことを話していたらきりがないから。話したいことは山ほどある。でも、それは就活中のアイツに話しても暖簾に腕押しというか糠にくぎというか豆腐の角に頭をぶつけるというか猫に小判というかだし、マリモをくれた人に話すようなことでもなくって、だからおまえらに話したい、けど、きりがない。

おれが話しても話してもきりがないほど話があるってのも珍しいことだぜ?

いつの間にか缶チューハイが500mlの缶ビールに変わっている。これだけで酔っ払っちまう。