夢は愚かな避難所

一生見られそうもないものなど、見たいとも思わぬ。

三戦全敗

電車で扉の脇のところに持たれて立っていた、いわゆる「狛犬」をしていた。そんなに混んだ電車ではない。向かい側にも「狛犬」がいた。すると突然太った女がおれともう一人の狛犬の間に座り込んだ。なんだか気分が悪そうだ。おれはこのとき本を読んでいて降りるべき駅を逃したところだった。「うわあ、ちゃんと降りてればこの女に『大丈夫ですか?』と聞くべきかいなか迷う必要なかったのにな……」とモヤモヤしていた。周りの乗客もなんとなく気にしている。結局1分くらい座り込んでいた女は立ち上がった。女はおれの方を向いて立っている。まだ気持ち悪そうな表情を浮かべていたから「ゲロ吐かれたらさすがになんとかしてあげなきゃいけないけど、ビーチサンダル履いているから足にかけられたら嫌だな」なんて思っていた。つり革に捕まる女は、その体より少し小さいグレーのTシャツの袖口から汚らしいワキ毛の剃り跡を覗かせてしまっていることには気づいていないんだろう。すごく嫌な気持ちになった。

一敗目。

 

渋谷の鉢山町あたりを歩いていたらタクシーをちゃんと路肩に寄せずに停車させたタクシーの運転手が車から降り右往左往していた。それを通り過ぎるとおっさんが歩道に寝転んでいた。まだ21時位なのに酔っぱらいだろうか、ケータイを片手に横たわるおっさんは少し様子がおかしかったので、声をかけた。「大丈夫ですか?」「あぁ、大丈夫ですよ、大丈夫。すみませんね」「そうですか? 気をつけてくださいね」「はいはい」なんてやりとりをしておれは去った。一勝目、かと思ったけど、さっきのタクシーの運転手は多分、というか絶対あのおっさんのことで何か困ったか緊急を要していたからうろちょろしていたのだろう。

二敗目。

 

近所のコンビニに寄ろうとたらこれまた30代前半の男がバス停のそばで眠りこけていた。あれは明らかに酔っ払いだった。夜は寒くなるだろうに、しかし彼は半袖で眠りこけていた。おれは彼を無視した。

三敗目。

 

 

少しの善意も見せられない。恥ずかしい。