夢は愚かな避難所

一生見られそうもないものなど、見たいとも思わぬ。

抜きたい

村田沙耶香の「星が吸う水」を読んだ。

 

鶴子という女は、自分の股の間にある勃起した突起から何かが「抜ける」ことによって性的快感を覚える。抜くために鶴子は、男と抱き合い突起を擦りつける。彼女はセックスのときに女であるということを忘れる、というより自分が男であるのか女であるのかよくわからなくなる。

 

鶴子には梓という友人がいる。梓は女の価値は男によって決まると考えている。自分を男に高く売るためにいつも身綺麗にし、女らしくあろうと努力している。

しかし彼女は恋人に振られてしまう。互いの両親を含めた旅行も控え、結婚も視野に入っていたのにも関わらず。恋人は「今どき、ありえないほど媚びた女」と浮気を重ね、結局梓から彼女へと乗り換えてしまった。梓は「捨てられた」。

 

鶴子には、梓が言っていることが理解できても腑に落ちない。頭でわかっても、「腑」のところで梓の考え方が受け入れられない。

 

だから鶴子は地球とセックスしようとする。

 

失恋に落ち込む梓を励まそうと計画された日帰り温泉旅行の道中、会社の同僚が「地球とセックスをしましょう」という詐欺に騙され65万円取られたと、鶴子と友人の志保に彼女は話した。すべての物体には性器があるというのがこの詐欺組織の言い分で、地球という物体にも性器があり地球と性交を行えば、すばらしい力が得られると言って人々を騙している。

 

その話を思い出した鶴子は二人の前で地球とセックスを試みる。「梓の中にある辞書の、セックスという言葉の意味を、一度だけ、崩壊させ」るために、砂利の中に手を入れ、深く深くその手をこの星に侵入させた鶴子だったが、結局梓と志保にたしなめられ、地球とのセックスを断念する。

 

「そんなことしたって、無理だってば。もう行こう」

「大丈夫だよ。作れるよ」

「作るって何?」

「見ればわかるよ。梓も作ればいいんだよ」

「なにそれ。何であたしが、そんなことしないといけないわけ」

「だってさ、それが一番合理的なんだよ。あたしが、今、ちゃんと証拠を見せるから」

「鶴子のはさ、理想論なんだよ。現実は厳しいんだよ。あたしたちは、それと戦わないといけないんだよ。あたしには、鶴子はそこから目を背けて、夢みたいなこといってるように見える。あたしは、鶴子のそこが一番、イヤなんだよ」

鶴子には比較的理解のある友人志保も

「鶴子はセックスしようとしてるっていうより、悪戯を仕掛けてる子供みたいだったよ」

と言った。

 

小説はここで終わらない、とても感動的なラストクライマックスの立ちションシーンは暇なときにでも読んでほしい。

 

ただただ長く要約したけれど、俺が何を言いたいのかは、俺に村田沙耶香という名前を教えてくれた女と、俺に失望したと言った男には多分わかると思う。俺の文章が、読んで理解できる水準にあるなら、少なくとも頭では分かってもらえると思う。

 

俺も俺だけのセックスを、めんどくさがらずに作りたい。「体位という便利な形式」を忘れたい。鶴子が星に水を吸わせたように、俺も自分の中に溜まったそれを抜きたい。

 

また「~したい」で終わる独り言になってしまった。

 きみは理想論を完璧に立ち上げようと奮闘しているように俺には見えるし、きみは現実と徹底的に戦った経験がある。俺だけはなんも変わらん。