指原の5年、おれの5年
指原莉乃が一位に返り咲いた。
「全国の落ちこぼれの皆さん、私を自信にしてください」と言っていてすごく安心した。おれが初めて見た指原はメンバーとともに街を歩くロケをしていた。店員に萎縮し、洋服屋でとても居心地が悪そうだった。仲の良かった後輩にもバカにされながら(その後輩はいつの間にか卒業した)、メイド喫茶で自身を解放している指原の姿におれは惹かれた。彼女は当時ヘタレと呼ばれていた。今の指原は、あの頃の指原と別人ではないんだなと、今日のスピーチを聞いていて思えたから安心した。
あれから5年近くが経って、彼女は完全に雲の上の人になった。むかしはバンジージャンプが飛べなくて企画をぶち壊したり、「えっちだってしたのにふざけんな!」と言ってしまうようななんだか脇の甘い、アイドルらしからぬ、ファン心理的にはだからこそ支えてあげたくなるような彼女だったのに、今では「私を自信にしてください」なんて堂々と言ってしまえるすごい人になった。
5年、という月日を考える。今日はAKB総選挙だったから、おれのTLにもAKB関連の情報が流れていったけど、その中に島崎遥香が「5年かかってようやく当時大人の人たちがイメージしていた私たちになってきた」と言っていたというツイートがあった。おれがAKBにハマった時期に加入したのが9期生であり、それは島崎遥香や横山由依などだ(そういえばNMBのお披露目にもおれは立ち会っている……)。5年で島崎はAKBに興味のない女性にも「ぱるるはかわいいよね」と言われるようになったし、横山は次期「総監督」にまでなった。
5期生の指原莉乃はAKBで特異な存在でありながら同時にそのトップに君臨し、アイドルらしからぬ(といってもおれに「アイドルらしさ」を語る能力はないからこれはただのイメージの話だけど)言動でテレビで見ない日はないほどまでそのポジションを確立した。
さっきテレビに長友佑都が出ていた。イタリアのクラブに移籍した直後の車での過ごし方に話が及んだとき「自分のためになるんだったら、時間は無駄にしたくないですよね」と言った。当時ほとんど意味の分からないイタリア語のラジオ放送を勉強のつもりで聴きながら運転していたと、ファンキーモンキーベイビーズの「涙」をスピーカーから流しながら、真っ赤な車のハンドルを握った長友が当時を回想していた。彼がイタリアに渡ってから5年になる。
「3年前までは、かなり素朴な毎日だった」
NTT ドコモ CM ワン・ダイレクション 「Message from 1D」 - YouTube
「たった3年で人生は変わる」
人生はたしかに変わるのだろう。
今日、高橋みなみはこんな風に言った。わたしはAKBに入り1年が経ったころに気づきました、私はこのグループでは1位にはなれないと、前田敦子や大島優子といったキラキラしたカリスマには勝てないと、だから自分はメンバーのために頑張ったと、言っていた。
それから30分後、指原莉乃はこんな風に言った。「なかなかセンターになれなかった私は考えました、どうやったら前田敦子さんや大島優子さんのようになれるのかと、でも考えたけどなれませんでした。なんの魅力もない私は『指原莉乃』をやり通そうと開き直りました」。
いま、朝井リョウの『もういちど生まれる』を読んでいる。大学生のときに読んだ『桐島〜』と『何者』には反発したけど、この作品は読んでいてヒリヒリする。好きな小説ではないけど、痛い。
5年、これから5年。無事生き残ればおれはそのとき30歳になる。
おれも考えよう。どうやったらもう一度生まれることができるんだ。